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● 心(こころ)酒
酒の神様と称された坂口謹一郎博士によれば、名酒とは「喉にさわりなく、
水の如く飲める酒」だそうです。酒の旨さを表す言葉として流行の「端麗」も、
その極致をきわめれば限りなく水に近づきます。
ならば水そのものでも、いいのではないでしょうか。そこで心酒です。
歌舞伎「俊寛」の一場面、平家打倒の陰謀が露顕し、鬼界ケ島に流された
青年貴族成経と海女千鳥が祝言を上げます。だが、絶海の孤島のこととて肝心の
酒がありません。千鳥は竹筒に入れた岩清水を杯代わりの鮑貝に注ぎます。
一口飲んだ俊寛が「こりゃ水じゃ」と言うと、千鳥は「酒ぞと思う心が
酒」と答えます。
デパートやスーパーの食品売場には、全国各地の名水が並んでいます。
さて今宵は、千鳥に倣い心酒、郷里の水でも一献くもうか…。
酒と思って心で酔います。
● 昆布(こんぶ)酒
戊辰戦争に敗れた仙台藩の有志は北海道に移住し大地に鍬を振るいましたが、
亘理伊達家の主従が切り開いたのが今日の伊達市です。その伊達市への旅行の
土産に、昆布のぐいのみを貰いました。
黒い肉厚の陶器を思わせるぐいのみでしたが、原料は日高産の昆布と寒天
だそうです。宣伝文に「アルカリ性食品」で、昆布も寒天も「今話題の食物
繊維が多く含まれ」ており、「添加薬品は一切使用
していない」とあり、酒器というより健康食品扱いになっています。
冷やでも燗でも構いません。ぐいのみを酒で満たすと内側が溶けて風味が
増します。飲むとかすかに昆布の味と香りがしました。乾燥させれば
繰り返し使えます。
● 菊(きく)酒
菊一輪、杯に浮かべ、花の色と香りを楽しみます。酒はキリッとした辛口が、 菊の気品にふさわしいでしょう。大輪ならば花びらを一、二片、杯に散らします。
● 茄子(なす)焼き酒
「嫁に食わすな」と諺になるほど美味しい秋茄子を、酒にしましょう。
茄子の雉焼きに酒を少量振りかけると味が良くなるのは料理の本にも出て
いますが、それならいっそたっぷり熱燗を注いで飲むのも一興です。
味を引き立てる脇役の酒を、主役にしてしまうのも上戸の楽しみです。
これがまた思いの外、旨いので嬉しくなります。
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