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● 月見(つきみ)酒
月を浮かべて飲みます。
それも、まがい物ではない、本物のお月様です。宇宙飛行士が月面から
持ち帰った石のかけらなら杯に入りますが、これは不可能な相談です。
「無茶だ」と言うなかれ、名月を杯に満たした酒に映して飲むのです。
酒席は、縁側か庭にしつらえます。猪口(ちょく)ではなく、口の広い、
大きな杯にしましょう。場所、角度を工夫すれば、丸いお月様が丸い
杯に収まります。そこで酒に映った月を、ぐっと飲み干します。
「酒が揺れれば、月も揺れる。」
● 印篭紅花(いんろう)酒
独眼竜と恐れられた戦国武将伊達政宗が愛用した酒ですが、今は幻となりました。
全20巻の「日本国語大辞書」(小学館)にわずか三行で、こう説明してあります。
「印篭につめた濃縮酒。仙台藩御用商榧森酒屋が醸造し、戦地へ携帯用とした」
印篭は「水戸黄門様(徳川中納言光圀)の葵の御紋の印篭」で有名ですが、
薬を入れる重ね小箱で腰に下げます。黄門は中納言の唐名、政宗も権中納言で
仙台黄門と呼ばれました。
印篭酒は、いわばインスタント酒です。女性の髪付油の少し緩いくらいの物で、
印篭につめて持ち歩き、戦陣で器にあけ熱湯を注いでかき回して用いると
いいますが、さてどんな味の酒だったのでしょうか。
いかにも酒好きの政宗らしいが、製法は伝わっていません。
政宗は葡萄酒も造らせていたといいますから、伊達者の面目躍如です。
● 淡雪(あわゆき)酒
アイスクリームかなと思って口にして、初めて酒と分かり、びっくりするでしょう。
作り方は簡単です。アイスクリームフリーザーで、酒をシャーベット状にするだけです。
ガラス器に盛った淡雪のような酒を、スプーンですくって食べます。
そこは、もう雪国、暑さも忘れます。好みで山葵をすって添えます。
フリーザーがない場合は、冷蔵庫の冷凍室でも構いません。頃合を見て、
凍る寸前を取り出します。
● 胡瓜(きゅうり)酒
韓国料理を出す店で初めて口にして、思わずうなってしまいました。
新鮮な胡瓜をざくざくと大振りに刻み、焼酎に浸して冷蔵庫に冷やしておきます。
焼酎は25度の、それもくせのない甲類が良いです。胡瓜の味がする、涼味満点の
爽やかな酒になります。
水や氷で薄めずに、そのまま飲みます。容器ごと良く冷やすのが、うまく飲む
コツです。
● 岩魚(いわな)の骨酒
岩魚は冷たい水を好み、標高1,000メートルほどの山間の渓流に棲息します。
鮎の上る地点より上流に山女(やまめ)がおり、さらにその上流に岩魚がいます。
山の残雪がすっかり解けると、岩魚釣の季節です。
岩魚に粗塩を振ってこんがりと焼き、大鉢に入れて熱燗を注いで、回し飲みにします。
酒のアルコール分で身と骨の滋味が抽出され、驚くほど旨くなります。
鮎に比べ、味は野趣に富みます。
釣りたてを榾火(ほだび)で焼きながら酒にするのも、面白いでしょう。
山女を使えば山女の骨酒になります。
● 酒中花(しゅちゅうか)
山吹の芯(茎の随)、柳やニワトコの削りかけなどで小さな花を象り彩色し、
杯の酒や杯洗の水に浮かべると開くようにした細工物、これが酒中花です。
コップの水の中で咲かせる造花、水中花に似ています。水中花は歌謡曲でも
歌われ今も人気がありますが、酒中花はとんと目にしません。
細工物の花はなくても、夏なら天然の巧緻というべき鷺草(さぎそう)
の花を杯に投ずれば即興の酒中花、酒に純白の鷺が舞います。
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