2月・如月の酒

濁り酒

どぶろくの語源は、濁醪(だくろう)だといいます。醪は諸味、まだ漉して いない酉=さけを指します。
どぶろくは全国共通語ですが、ドブザケ、ニゴリと呼ぶ地方も多いです。 地域によってはダグ(青森)、ドベ(岩手)、フグロ(秋田)、ヤギ(山形)、 ドブ(富山、三重、和歌山、広島)、ドビ(鳥取)などの名があります。 ドンドン酒、これは韓国料理の店で知った呼称です。
どぶろくは生きているので、飲みごろを逃すと酸っぱくなります。 ところが寒造りと言って寒のうちに造ったのは仕上がりが格別、変味もしない そうです。古老の話では、そのころはお百姓さんはまだ上等の米を持っている 時分ですし、表土が凍っているので湧水がきれい、つまり米も水も良いです。 だから美味になります。
どぶろくの旨さの鍵は、その濁りにあります。微細なコロイド粒子が 舌の味蕾(みらい)を刺激しうま味を引き立てるためだそうです。 味噌汁も澄んでいれば、間抜けた味になります。それと同じです。
白濁した酒を雪に見立て杯に梅花一輪浮かべて、雪見酒の趣向に いかがでしょうか。
白馬(濁酒の別別称)に梅、「無茶」と言うなかれ、美は乱調にあり、 美味は濁りにあり。

卵酒

寒に旨いのは寒鰤、寒鮒、寒卵。そこで卵酒です。滋養に富み、下戸にも好まれます。
まず即席風、コップか湯飲みに卵を割り入れ溶きほぐして、熱燗の酒を 注いで混ぜます。逆に、熱燗に静かに卵を流し込んでも良いです。卵は黄身と白身が 一体になるまでよく攪拌しておくのがコツです、これを怠ると卵とじになって しまいます。好みで砂糖を加えます。
本格的には酒と溶き卵を混ぜ(酒二合に卵一個、砂糖スプーン適量)、 小鍋に入れて火にかけ掻き混ぜる。 煮たててはいけないし、攪拌を続けないと卵がブツブツになって味良く 仕上がらないです。マッチで酒に火をつけ、パッと燃え上がったら お仕舞いです。
お年寄りやご婦人用のアルコール分の少ない、甘い卵酒の作り方です。 小鍋に湯飲み一杯の酒と等量の水を入れ、卵一個、砂糖を多めに加えて よく掻き混ぜてから火にかけ、アルコールを飛ばします。 甘味がポイントになりますが、カステラに似て、カステラより旨いです。
これは卵を溶かない、ちょっと変わったやり方です。 ご飯茶碗に卵を一個を割り、熱燗を静かに注いで、卵の上の液体、つまり 酒のみ啜(すす)ります。それだけです。飲んだらまた酒を注ぎ足します。 熱々の酒でないといけないし、卵を攪拌してもだめです。酒の毒を 卵が吸い、悪酔いを防ぎ、酒の味が良くなると伝えられます。
器はご飯茶碗に限るのは、酒と卵の触れる面積を広くするためと 言われると、いかにも毒気を吸収しそうな感じがするから不思議です。 白身が固まってきたら卵は捨てます。 卵とアルコールとは相性が良いのか、西洋にはブランディーエッグが ありますし、西部劇でガンマンが決闘の前に生卵を入れたビールを飲む シーンを見たことがあります。

烏賊(いか)酒

酒には鯣(するめ)が似合います。一夜干しの鯣を手に八代亜紀の「舟唄」を 口ずさみます。
「お酒はぬるめの燗がいい。肴はあぶったイカでいい。」 気分が酒をさらに旨くします。
鯣をいっそ酒器にしたら…。こんなすごい発想で作られたのが、 八戸(青森県)の名物、烏賊徳利(とっくり)です。
烏賊を壷抜きにして干して、徳利の形に加工します。 胴が徳利、耳の部分が杯になっています。熱燗を徳利に入れて しばらく置き、温めになったころにいただきます。 鯣の甘味が酒に滲み、味がやわらかくなります。 だれが考えたのだろうか、きっと飲ん兵衛に違いないです。
何度か使った烏賊徳利も、あぶって毟(むし)れば酒の肴に なります。肴が器か、器が肴か…。
鯣で代用も出来ます。強火であぶり、短冊型に裂いて燗酒に 入れます。即席ですが濃厚な烏賊酒になります。鯣の分量を 加減すれば、好みの味にできます。鯣に軽く塩を振っておくと、 風味が増します。これで飲めば男も女も、無口になります。

生姜(しょうが)酒

風邪の特効薬です。生姜をたっぷり摩りおろし、熱燗の酒に入れて飲みます。 漢方では生姜は発汗・健胃薬に用いられます。この酒は、生姜の辛みと香気が たまりません。別に風邪でなくとも、また食前、食間、食後いずれの 服用でも構いません。副作用があるとすれば、飲み過ぎることでしょう。

日本醸造協会誌1999.2

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