12月・師走の酒

大蒜(にんにく)酒

鱗茎と砂糖をホワイトリカーに漬け、半年寝かせて作るのが薬用酒「にんにく酒」ですが、 これは日本酒で、それも即席です。湯飲みの熱燗に、生にんにくをたっぷり摺りおろして入れます。 これで、出来あがりです。飲んだらすぐ寝ます。風邪のひき始めなら、この一杯で治ります。 以外に臭みは少ないですが、気になるなら蜂蜜を加えても良いです。

雉(きじ)酒

雉肉を炙り器に入れ、熱燗を注ぎます。抱き身(胸肉)の塩焼きが、 最良とされます。
この雉酒、古くから元日の供御に用いられてきました。 雉は日本の国鳥、今も宮中の新年を祝うハレ(晴)の膳に出される由緒正しい、 めでたい酒なのです。
雉は狩猟シーズンの今なら手に入りますが、難しい場合は山鳥や養殖の鴨でも 代用できます。間鴨で楽しむ時は、薄く切った一口大の肉に軽く塩を振ってから やきます。
焼き立てを大ぶりの杯に…。肉の旨みが滲み、脂が浮いたところを クイッとやります。

蟹(かに)酒

これは旨いです。茹でた蟹の甲羅を外し、蟹ミソのたっぷりついた甲羅に 熱燗を満たし、しばらく待ちます。
甲羅そのものが杯であり、待つ間も惜しく、口からお迎え…になります。 甲羅はでこぼこしているし、縁が均一でないので、飲みにくく、唇の端から こぼれますが、気になどしていられません。グビッと一口、拳で拭ってまた一口。
食卓用の小さなコンロがあれば、甲羅を燗鍋代わりにし、温まったらそのまま 飲むのも野趣があります。甲羅が焦げて、酒も香ばしくなります。
どうしても行儀が気になるご婦人は、蟹がびっしり抱いている卵を箸で取り出し、 大きめの杯に盛って熱燗を注いでも良いです。
甲羅はあまり大きすぎても小さすぎても具合が悪いですが、毛蟹、マツバガニなど 海の蟹でも、川蟹でも楽しめます。香箱(ズワイガニの雌)ならば言うことはないです。

具慈(ぐじ)酒

ぐず、ではないです。ぐじ、スズキの仲間のアマダイのことで、 関西ではこう呼ばれます。
この具慈を塩焼きにし、蓋付きのお椀に入れ、熱燗を注いで蓋をし、三分ほど 置きます。酒と塩と具慈の身、皮の旨みが一体となった濃艶な味わいになります。 くずぐずせずに、飲みましょう。
アマダイには白、赤、黄の三種類がありますが、具慈酒の滋味を 堪能するには白皮、つまり白ぐじに限るそうです。それにしても酒は、 旨みを引き出す神秘的な力を持っています。
日本海に浮かぶ飛島(酒田市)では、婚礼の翌朝、お頭付きの見事な 鯛の塩焼きを大鍋に入れ、たっぷりの酒を注いで温めて振る舞う習慣が ありました。潮汁のように砕いた鯛の身と共に椀に盛り、豪快に飲むのです。
島の生活が便利になり、結婚式は自宅ではなくホテルで挙げるようになりますと、 こうしたおふるまいも廃れてしまいました。

鮑(あわび)酒

鮑の地獄焼き、生きている鮑を殻付きのまま直火で焼き、酒と 醤油をたらします。磯の香に鼻をピクピクさせ、フウフウいいながら 食べ、その一片を熱燗の杯に…。口中は極楽です。
酒の肴として珍重される鮑の腸、肝の塩辛を「としろ」と呼びますが、 これを少量、燗酒に入れて飲むのも一興です。「としろ」は、酒毒を消すといわれています。

日本醸造協会誌1999.12

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