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● 滑子(なめこ)酒
松茸は高過ぎて買うのに躊躇する方も、大衆的な滑子なら懐の心配無しに
使えるでしょう。笠の大きく開いた天然物が理想ですが、栽培物でも
結構です。
滑子を小鍋で空煎りするようにして火にかけると、独特のぬめりが出ます。
これを焼き味噌で味付けし、熱燗を注ぎます。
ぬめりが酒に混じり、口中に妙味が広がります。滑子は「つるつる滑る
キノコ」の意味ですが、その名の由来のぬめりがたまりません。
ブナ林の恵みに感謝して、滑子酒で乾杯!
● 腸(わた)酒
海鼠(なまこ)のはらわたを洗って塩漬けにしたのが、 酒のつまみに珍重される海鼠腸(このわた)です。その昔、 海鼠は「こ」と呼ばれていたので「こ」のの腸「わた」ですから 「このわた」となりました。寒天下で作られたのが美味とされています。
海鼠腸をすするや絹をすするごと 尺山子
ぐい飲みの熱燗に、この海鼠腸を少量入れてかき回すと
香り良く、絶品の腸酒になります。
「このこ」は「こ」の子で、海鼠の卵巣のことです。
軽く炙っていただきますが、酒に入れた「このこ酒」も風味が
あります。
鮎の内臓の塩辛が「うるか」で、腸は「渋うるか」、
卵巣は「子うるか」、精巣は「白うるか」になります。
判じ物のようですが、腸、卵巣、精巣を混ぜて作ったのが
「取り交ぜうるか」です。苦みと渋みを賞味しますが、
これをちょっぴり杯の酒に溶かせば「うるか酒」となります。
秋を見て箸にうるかの黒きかな 青々
● 根深(ねぶか)酒
湯豆腐の薬味に欠かせない葱(ねぎ)は、「日本書記」にも
その名前が出ており、古くから栽培されてきました。特有の臭みと
香りがあり、料理を引き立てる名脇役として、広く利用されています。
葉鞘が深く地下に埋没して軟化白色を呈するので、深葱、根深とも言います。
作り方は簡単です。白色部を薬味に使うよりさらに細かにみじん切りにし、
湯飲み茶碗に入れ、上から熱燗を注ぎます。梅干しの肉を一個分、
加えても良いです。ひき初めの風邪に効きます。
● 牡蛎(かき)酒
殻付きの牡蛎を用意します。二つに分け身の方を殻ごと火、できれば
炭火で炙り、良い匂いがして来たら燗酒を注いでグイッとやります。
酒と牡蛎の汁が程よく混じり、陸と海のエキスを一度に
飲み干す心地がします。中の牡蛎の身は、そう、そのまま酒の
肴になります。
焼けた殻が杯代わりなので、火傷しないよう、唇を切らない
よう注意が必要ですが、そんな用心は忘れてしまうほど美味しいです。
滋養に富み、海のミルクと呼ばれる牡蛎を育てるのは、
豊かな森です。森の養分を川が海に運び、牡蛎の餌となる
植物プランクトンを養います。「森は海の恋人」ですが、
「牡蛎は酒の恋人」です。
● 片恋い酒
この酒は鰈(かれい)を使います。なぜ片恋いかって、まずその
説明から入りましょう。
カレイ目カレイ科の海水魚、葉っぱのような平たい魚という
意味で鰈と書きます。海底の砂地にすみ、上面は黒くて目が二つ
ありますが、下面は白くて何もありません。
中国の伝説では、元々両面黒かったのですが、二つに裂けてしまい、
目のあるほうが目無しのまま漂っている片身を探して泳いでいるのだ
そうです。
カレイの語源は、この片割魚(かたわれいお)からきているといいます。
運よく片割れに巡り会うと、寄り添って末長く暮らします。
釣り上げられた鰈は、片恋いのままです。つまり私たちが
食べた分だけ、一緒になる機会を失った片身の目の無い鰈が、
それとは知らず相方を待って海の底をさ迷っていることになります。
あわれです。
同じように片側に目がある魚に、平目(カレイ目ヒラメ科)がいます。
目の位置で区別しますが、「左ヒラメ右カレイ」で左側が平目、
右側が鰈です。英語でもカレイのことをright handed flounder(右利きの
平らな魚)と言うので、洋の東西を問わないようです。
ちなみに酒飲みは左利き、鑿(のみ=飲み)を持つ手が左、鎚を持つ手が
右だからです。左は「飲み手」です。
ところで世界には寒帯を中心に約百種の鰈がいますが、日本の近海物は
冬が旬です。刺し身にしても塩焼き、煮付け、空揚げにしてもうまく、ついつい
杯を重ねてしまいます。
片恋いで終わった鰈は、骨まで味わい尽くして供養してやらなければなりません。
食べ残した煮魚、焼き魚の骨は熱湯を注ぎ、醤油で味付けして骨湯(こつゆ)
にして飲んだものですが、酒徒は「骨まで愛して」これを骨酒にします。
鰈の骨や鰭(ひれ)をこんがり焼き、大きめの器に入れて上から熱燗を注ぎます。
「片恋い」のくせになぜ「骨まで愛して」ですって?
堅いことは言わない、言わない。
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