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● 松茸(まつたけ)酒
キノコの王様松茸を酒の味付けに使うと、もったいないと叱られそうですが、
これがまた旨いのです。
松茸を短冊型に切り、さっと炙って筒型の湯飲みに入れ、熱燗を注ぎます。
口に運ぶ前から高い香気が漂い、鼻がピクピクします。酒は高貴な味となり、
思わず喉も鳴ります。
燗鍋に松茸と酒を一緒に入れ、燗をつけても良いです。
使った松茸は、酢橘を絞り、醤油をたらし、つまみにします。
ホワイトリカーに松茸を浸け、砂糖を加えれば、疲労回復や腫瘍に
薬効のある薬用酒になりますが、熟成には1カ月以上かかるので、とても
待てません。風味が失せないうちに、熱燗で試すに限ります。
京都が松茸の本場とされますが、国産ものが高値の花なら
韓国産でも中国産でも結構です。秋ならではの芳醇な酒が楽しめます。
最初から一升瓶に松茸が入った日本酒も、市販されています。
瓶のガラスのレンズ効果で松茸が実物より立派に見えるのがご愛嬌、
食欲、いや酒欲をそそります。
● 酢橘(すだち)酒
酢橘は淡路島や徳島県の特産の小さなタチバナの実、松茸の土瓶蒸しには
欠かせないですが、酒党は酒の友とします。
スライスした酢橘を、杯の酒に浮かべてみましょう。酸味と香りが
程よく酒になじみ、爽やかな味になります。
酢橘の外、蜜柑、柚子、あるいはライムやレモンでも楽しめますが、
柑橘類は絞り込むと酒が苦くなるので輪切りにするのが旨く飲むコツです。
それも長く入れて置かないで引き上げ、飲み継ぐ際に新しいのと入れ替えた
方が良いです。
酸の効き目かビタミンCの働きか、いくら飲んでも悪酔いせず、
気持ち良く談笑できます。
柑橘類の酒では、見た目も香り、味も青々とした酢橘が一番です。
花で試すなら初夏の頃の密柑を薦めますが、やはり花より実の
ほうが勝ります。
● 含(ふく)み酒
「あがらしゃれ」と歌で酒を勧めても、どうしても杯を受けない時は、
最後の手があります。口を杯にした「含み酒」、口移しで飲ませる
いわば接吻酒です。
うれしい奇習?ですが、もちろん、お酌は若い女性とは限りません。
口から口に、無理やり注がれる場面もあるでしょう。杯(徳利)を
選べばいいのに…と悔やんでも、もう遅いです。
乙女が米を噛んで醸したのが酒の始まりとすれば、
含み酒は神代の昔からあったのではないでしょうか。
推奨したいところですが、この酒ばかりは「手軽に
お試しあれ」とはいかないです。残念です。
● 蕎麦(そば)前
信濃では月と仏とおらが蕎麦 一茶
新蕎麦の季節、ひき立ての蕎麦の香りがたまりません。
古い蕎麦屋に入ったら、品書きに「そば前」とありました。
蕎麦前、蕎麦を食べる「前」に飲むもの、つまり酒です。
頼むのはシンプルな「もり」、酒との取り合わせはこれに限ります。
「前」を飲みながら待ち、出てきたら残りの酒を蕎麦に振りかけてたぐります。
「蕎麦前」は後を引きます。蕎麦を肴にまた飲みたくなり、
ついつい蕎麦「中」に。
仏忘れて「…月とお酒とおらが蕎麦」。
蕎麦湯には、蕎麦の栄養成分がたくさん溶け込んでいます。
これで酒、杯に一杯分の「前」か「中」を残し
ておいて、蕎麦猪口で蕎麦湯を注いで飲んで名残を
惜しみます。焼酎の「蕎麦湯割り」を品書きに加えて
いる店もあります。
家庭でこの焼酎の蕎麦湯割りを飲みたい時は、買い置きの
蕎麦粉を熱湯で溶いて即席の蕎麦湯を作れば、
それこそ手軽に楽しめます。
● 味噌(みそ)酒
飲み過ぎた朝は、その日が休日なら味噌汁ならぬ味噌酒が良いでしょう。
燗鍋の内側に薄く味噌を塗り付け、火にかけます。
味噌が焦げて香ばしい匂いがしてきたら、酒(燗冷ましでも可)
を入れ、良く燗がついたところを杓子でお椀にすくって飲みます。
味噌の焦がし加減が難しく、あまり生では味噌臭い酒に
なりますし、焦がし過ぎても炭が浮いて苦くなります。
上手に出来れば、二日酔いも何のその、見るも疎ましかった酒が
いくらでも入っていきます。始末に困る飲み残しの酒も、
味噌酒にすると生きかえります。人も蘇生します。
この酒は「あがらしゃれ」の里で、婚礼の翌朝、大きな鍋で
味噌酒を作り、「目糞(くそ)落とし」と称して振る舞うのが
習わしになっています。目ヤニが取れるほど旨いのか、
飲むほどにショボショボしていた宿酔の目もパッチリ、
また酒宴の続きとなるのです。
燗冷ましの酒に上等な杉の割り箸を入れて燗をつけ直すと
味が戻るそうです。これは東京・築地で箸問屋を営む友人に
聞きました。
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