1月・睦月の酒

とろろ酒

山の湯の里・鳴子温泉(宮城県鳴子町)の温泉神社には、不老長寿の妙薬とされる 「とろろ酒」の神事が伝わっています。この神社は平安時代の「神名帳」である 延喜式に載っている古社で、氏子たちが潔斎して参籠し、とろろ酒で年越しを 祝うのがしきたりでした。
今は略式になりましたが、お酒の方は変わらず、山芋を摺鉢でよくすりおろして お椀に入れ、熱燗の日本酒を注いでいただくのです。
粘りが強いので薄い出し汁でのばし、その上に酒を注ぐのですが、 とろろと酒の境目を啜るようにしていただくのがコツです。 芋と酒が口中で交じり合い、ゆっくりと胃の腑に落ちて行きます。 胃に優しい、そして元気の出そうな酒です。

芋(いも)酒

あの鬼の平蔵(池波正太郎「鬼平犯科帳」の主人公・火付盗賊改 長谷川平蔵) が好んだのが、芋酒です。山芋を使うのは同じですが、温泉神社のとろろ酒とは 作り方が違います。今宵は鬼平が飲んだ居酒屋「加賀や」流で。
これは摺った芋を酒で練った「練り酒」で、乳白色になったやつを燗をつけて 飲みます。「皮をむいた山の芋を小さく切って笊(ざる)に入れ、これを 熱湯にひたしておき、しばらくして引きあげ、摺り鉢へ取ってたんねんに摺り、 ここへ酒をいれる」(兇賊)のです。熱湯に浸すのは、熱の通った部分が 糊性を持つのでつなぎの役になり、ちょうど良い具合に酒と交じり合うからですが、 浸し過ぎると澱粉が沈殿してしまいます。その頃合いが難しいです。

鯛(たい)骨酒

目出度い魚といえば鯛、値段は高いですが頭から骨まで一尾丸々使えるので 無駄がありません。頭は兜焼きや潮汁になりますし、細かな身はこそげ落として 味噌と味醂で練ると鯛味噌になります。骨は、そう、骨酒になります。
まず骨をこんがり、鰭は軽く焼き上げ、大き目の湯飲み茶碗に入れて 手早く熱燗を注ぐと、骨酒になります。
焼くのではなく、煮る方法もあります。アラ、漢字で書くと荒の部分を 小鍋で酒と少々の塩で煮て、これを丼に移し、上から熱燗の酒を注いで二、 三分置いてから豪快に飲みます。材料が新鮮でないと生臭いし、水洗いが雑 でも魚臭さが残るので、焼いた方が失敗はないです。
贅沢に身の方を焼けば、これは「鯛酒」になります。蓋物の椀に入れて やはり熱い酒を注ぎ、二、三分してから頂きます。 骨酒に比べ軽く上品な味ですが、うま味を吸い取られ出し殻になった身の方は 捨てるしかありません。身は肴に、骨は酒にが、酒徒の定法でしょう。
骨を捨てて無駄にしているお宅はありませんか。 骨酒で酒好きの亭主に舌鼓を打たせるのも、主婦の腕のうちです。

河豚鰭(ふぐひれ)酒

待つ間がたまらないのが、河豚の鰭酒です。乾燥した鰭を焦げない程度に 炙り、湯飲み茶碗に入れ、熱つ熱つの燗酒を注ぎ、蓋をして三分ほど待ちます。 蓋は小皿でも茶托でもいいわけですが、蓋付きの茶碗の方が良いです。
待ち切れなくなったところで、蓋をそっと開け、マッチで火を 付けると、ポッと燃え立ちます。すぐ蓋を閉めて消します。 アルコールを飛ばすのですが、ライターでは無粋です。これを 「火遊び」といいます。芳ばしい鰭酒をグイッとやると、芯から 身体が温まります。
これに鉄ちりがあれば、言うことはないです。
寒い夜はたまには火遊びも良いです。鰭酒用の干した鰭が 市販されているので、火遊びは家庭でも出来ます。 鰭の代わりに河豚の皮を軽く炙ったのを旅先の大分市で 飲んだことがありますが、これも乙な味でした。

日本醸造協会誌1999.1

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