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● とろろ酒
山の湯の里・鳴子温泉(宮城県鳴子町)の温泉神社には、不老長寿の妙薬とされる
「とろろ酒」の神事が伝わっています。この神社は平安時代の「神名帳」である
延喜式に載っている古社で、氏子たちが潔斎して参籠し、とろろ酒で年越しを
祝うのがしきたりでした。
今は略式になりましたが、お酒の方は変わらず、山芋を摺鉢でよくすりおろして
お椀に入れ、熱燗の日本酒を注いでいただくのです。
粘りが強いので薄い出し汁でのばし、その上に酒を注ぐのですが、
とろろと酒の境目を啜るようにしていただくのがコツです。
芋と酒が口中で交じり合い、ゆっくりと胃の腑に落ちて行きます。
胃に優しい、そして元気の出そうな酒です。
● 芋(いも)酒
あの鬼の平蔵(池波正太郎「鬼平犯科帳」の主人公・火付盗賊改 長谷川平蔵)
が好んだのが、芋酒です。山芋を使うのは同じですが、温泉神社のとろろ酒とは
作り方が違います。今宵は鬼平が飲んだ居酒屋「加賀や」流で。
これは摺った芋を酒で練った「練り酒」で、乳白色になったやつを燗をつけて
飲みます。「皮をむいた山の芋を小さく切って笊(ざる)に入れ、これを
熱湯にひたしておき、しばらくして引きあげ、摺り鉢へ取ってたんねんに摺り、
ここへ酒をいれる」(兇賊)のです。熱湯に浸すのは、熱の通った部分が
糊性を持つのでつなぎの役になり、ちょうど良い具合に酒と交じり合うからですが、
浸し過ぎると澱粉が沈殿してしまいます。その頃合いが難しいです。
● 鯛(たい)骨酒
目出度い魚といえば鯛、値段は高いですが頭から骨まで一尾丸々使えるので
無駄がありません。頭は兜焼きや潮汁になりますし、細かな身はこそげ落として
味噌と味醂で練ると鯛味噌になります。骨は、そう、骨酒になります。
まず骨をこんがり、鰭は軽く焼き上げ、大き目の湯飲み茶碗に入れて
手早く熱燗を注ぐと、骨酒になります。
焼くのではなく、煮る方法もあります。アラ、漢字で書くと荒の部分を
小鍋で酒と少々の塩で煮て、これを丼に移し、上から熱燗の酒を注いで二、
三分置いてから豪快に飲みます。材料が新鮮でないと生臭いし、水洗いが雑
でも魚臭さが残るので、焼いた方が失敗はないです。
贅沢に身の方を焼けば、これは「鯛酒」になります。蓋物の椀に入れて
やはり熱い酒を注ぎ、二、三分してから頂きます。
骨酒に比べ軽く上品な味ですが、うま味を吸い取られ出し殻になった身の方は
捨てるしかありません。身は肴に、骨は酒にが、酒徒の定法でしょう。
骨を捨てて無駄にしているお宅はありませんか。
骨酒で酒好きの亭主に舌鼓を打たせるのも、主婦の腕のうちです。
● 河豚鰭(ふぐひれ)酒
待つ間がたまらないのが、河豚の鰭酒です。乾燥した鰭を焦げない程度に
炙り、湯飲み茶碗に入れ、熱つ熱つの燗酒を注ぎ、蓋をして三分ほど待ちます。
蓋は小皿でも茶托でもいいわけですが、蓋付きの茶碗の方が良いです。
待ち切れなくなったところで、蓋をそっと開け、マッチで火を
付けると、ポッと燃え立ちます。すぐ蓋を閉めて消します。
アルコールを飛ばすのですが、ライターでは無粋です。これを
「火遊び」といいます。芳ばしい鰭酒をグイッとやると、芯から
身体が温まります。
これに鉄ちりがあれば、言うことはないです。
寒い夜はたまには火遊びも良いです。鰭酒用の干した鰭が
市販されているので、火遊びは家庭でも出来ます。
鰭の代わりに河豚の皮を軽く炙ったのを旅先の大分市で
飲んだことがありますが、これも乙な味でした。
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